Special Edition

ルーツとゼロ・ウエイスト

深い森を抜けると突然現れる、四国の中で最も小さな町。徳島県の上勝町は2000人を切る人口の2割以上が80歳以上、60歳以上を総計すると全体の半分をも占めるという過疎高齢化地域。

徳島県上勝町

しかし、「葉っぱの町」「ごみゼロの町」というフレーズに、「あ〜!」「あの…」と思い当たる人もいるかも知れない。そう、上勝町は料亭などの料理に添えられる「つまもの」の販売を通して生き生きとと働くおばあちゃんたちの姿や、町ぐるみでの「ごみゼロ」の取り組みなどが度々テレビでも紹介されており、けっこう熱い視線を浴びている町なのである。

「つまもの」の販売を通して生き生きとと働くおばあちゃんたちの姿
町ぐるみでの「ごみゼロ」の取り組み
町ぐるみでの「ごみゼロ」の取り組み

余談ながら、上勝町旭は、人口が300数十名の風光明媚な里山。この旭の中に田野々という集落がある。そのルーツは、1190年、源平屋島の合戦の際、平氏の教経公(のりつねこう)の配下に属した一武将が教経公の武具を預かり、源氏の追手を逃れ、田野々神明の地に土着し、農民になったと言い伝えられており、それが旧家の大内家の始祖である。

旧家の大内家の始祖

大内家は祠を設け、「教経権現」と称し、敗走当地から捧持してきた武具を祀っていた。そして、武具の一部は今も神明神社に奉納されており、大内家の血縁者によって奉持されている。

神明神社に奉納

ちなみに、源平屋島の合戦とは、1185年に勃発。一ノ谷の戦いに敗れた平氏は、讃岐国屋島へ逃げて本拠を構え、一方、源義経が率いる源氏軍は軍船を組み、平氏を追って屋島へ向かう。その際、扇の的や弓流しなどのエピソードが生まれたことは有名なこと。そして、屋島の戦いでは、平氏軍は屋島を追われ、その多くが山口県下関市の彦島へと逃げ落ちた。

扇の的や弓流しなどのエピソードが生まれたことは有名

またまた余談ながら、「上勝町誌」には「大内家の客魚」という逸話が残されている。田野々の神明神社南側の畠は大内家の屋敷跡で、昔、屋敷の鬼門方には十坪程の池があった。大内家に来客があると、この池に客の数より一匹多い新鮮な魚が泳いで来て、大釜の蓋の上に跳ね上がったものだという。そして、大内家ではいつもその魚で客をもてなし、一匹多いのは主人の接待用という。なお、この池は大内家の乾の方にある蛇淵と通底しているといい、そこから魚は届けられるのだという。四代前に池を埋めて倉を建てたというが、今は倉の跡もはっきりしない。

その大内家の末裔がこのボクなのだ。遥か昔、存命中だった頃の親から聞いたこととほぼ同じ内容であるから、多分間違いないことだと思う。曽祖父の代まではかなり裕福だったようだが、祖父の代で没落したという。隔世遺伝とはよく言ったものである。祖父がしっかり者で、そして、世が世なら、今頃私は殿様だったような気がしてならない。残念。

隔世遺伝とはよく言ったものである

話は戻るが、上勝町は平成15年9月19日に、未来のこどもたちにキレイな空気や美味しい水、豊かな大地を継承することを目的とし、「ごみゼロ(ゼロ・ウエイスト)宣言」を日本で初めて発表した。その宣言に盛り込まれている内容は、以下のとおり。

宣言文
1.地球を汚さないひとづくりに努めます!
2.ごみの再利用・再資源化を進め、2020年までに焼却・埋め立て処分をなくす最善の努力をします!
3.地球環境をよくするため世界中に多くの仲間を作ります!

ごみの分別も、「燃えるごみ」と「燃えないごみ」の2通りしか無い地域もあるなかで、上勝の分別数はなんと34。分別数の多さは日本一という。

上勝の分別数はなんと34。分別数の多さは日本一

上勝町では収集車でごみの回収はしていない。その代わりに町の住民各自が、ごみをゼロ・ウェイストの拠点である「ごみステーション」まで運んでいる。そして、「ごみステーション」では納得して協力してもらうために、運搬、焼却、灰の埋め立てに至るまでのコストをしっかり算出し、数字でわかるように記している。

ごみステーション

日本では、ごみの焼却や埋め立て処理だけでも膨大な費用が掛かっているのが現状。上勝町では別の町にある民間の焼却場までごみを運んで焼却し、さらに埋め立てのために別の場所まで運ぶために、ごみ袋1袋分のごみに約300円の処理費用がかかってしまう。つまり、排出するごみを1袋減らせば約300円の節約になる。さらに、細かく分別して、それぞれのリサイクル業者と連携することで「資源」として再利用することができる。

「資源」として再利用することができる

そして、「ごみステーション」には、子どもが成長して着られなくなってしまった子供服など、「持ち主にとっては不要になってしまったけれど、まだまだ使える物たち」がずらりと並んだリユース推進拠点「くるくるショップ」が併設されており、このショップでは住民だけではなく、この町を訪れた人々で欲しい人が自由に持ち帰ることができるという。

くるくるショップ

また、隣接する介護予防活動センター内には「くるくる工房」というショップがあり、センターのおばあちゃんたちが不要になった素材を活用して制作したリメイク商品が販売されている。

くるくる工房
くるくる工房

考えずに捨てたり、まとめて燃やしてしまえば「ただのごみ」。しかし、視点を少し変えれば、繰り返し使える大切な資源となりうるものが多い。ごみを減らし、資源として再活用するための仕掛けが、この小さな町「上勝町」には沢山ある。「ごみ」の扱い方で、今後の日本の環境に大きな変化をもたらすかも知れない。

そんな「ごみゼロ」を掲げる徳島県勝浦郡上勝町に、「ごみステーション」「ラーニングセンター」「ホテル」「ラボラトリー」「体験案内所」の複合施設「上勝町ゼロ・ウェイストセンター(WHY)」が2020年初春開業する予定であったが、今般の新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、開業が延期、オープンが「ごみゼロの日」2020年5月30日(土) に変更になった。

上勝町ゼロ・ウェイストセンター(WHY)

「ごみステーション」は設置から20年が経過し、視察者も増加。この住民全体が取り組む「ゼロ・ウェイスト」に対する取り組みをもっと深く見せつつ、住民がごみを捨てやすい環境を作りたいという思いのもと、「ごみステーション」に変わる新しい施設として開業した「WHY」。なぜここに?なぜごみを?という問いかけに答えを見つける場所となるような思いが込められている。

ごみステーション

同施設には「ごみステーション」の他に、「ラーニングセンター」「体験型宿泊施設となるホテル」「ラボラトリー」「アドベンチャー&エコロジーツーリズム案内所」が併設。総合プロデュースはTRANSIT GENERAL OFFICEが担当。そして、建築設計は、大量消費・大量生産社会を問題視する次の建築を目指し、上勝町で伐採された杉材や不要になった建具や家具などを活用して、中村拓志&NAP建築設計事務所が担当。

ゴミ捨て場である「ごみステーション」にホテルとは常識を超えた発想だが、そもそも「ゼロ・ウェイスト宣言」とは、未来のこどもたちにきれいな空気や美味しい水、豊かな大地を継承する事が目的。

ホテル

上勝町は、訪れた人がまだ見ぬ未来が同じ景色であって欲しいと願うほど美しい場所。長期間滞在することで多くの体験をしてもらう必要な要素としてホテルを併設することになった。上勝町の谷が眼下に広がり壮大な景色が見られる部屋など4部屋を用意。

ホテル
ホテル
ホテル

施設内で年に数回企画されるサスティナブルラーニングの為のセミナールーム、3R活動に興味ある大学や企業向けに貸し出す研究室や、アドベンチャー&エコロジーツーリズムの案内所を設置し、上勝町の自然の恵みを取り込んだフライフィッシング、レイクカヤック、リバーピクニック、トレイルランニング、循環型ライフ体験などフィールドアクティビティーを体験できるプログラムが実行される。

フィールドアクティビティーを体験できるプログラム
フィールドアクティビティーを体験できるプログラム
フィールドアクティビティーを体験できるプログラム

近々、大内家の末裔として先祖の墓参りを兼ねて上勝町に訪れてみたものだ。なお、この内容は2016年5月、2018年12月に「Touch the heartstrings」で掲載したものを少々リライトしたものです。

 


 
 
 
Top  
 
 
pagetop